ヤドカリのひげ

  カニやエビ、ヤドカリなどは、第一触覚と第二触覚というひげを持っています。ご存知のようにエビは長い立派な触角を持っていますが、カニの触覚はとても小さなものです。
 
エビの長い触角は第二触覚で、物に触って情報を感知する器官ですが、カニの場合は短いので、あまり役には立ちそうにありません。
 
第一触覚は、匂いを感じる器官といわれていて、第二触覚より小さく、第二触覚の内側に位置し、いつもせわしなく動かしています。

 
それでは、カニとエビの中間に当たるヤドカリの場合はどうでしょうか。
 
ヤドカリの場合は、エビに似た鞭のような長い第二触角を持っています。この長い第二触角を振り回し、素早く危険を察知し殻に引込み、身の安全を確保しようという作戦です。

ところが、ヤドカリの第二触覚に、変わった形の触角があるのを見つけたのです。

 
夏が終わり、干潟からカニたちの姿が見えなくなり、葦の穂が風に揺れて何か物悲しさを感じるころ、三浦半島の江奈湾を訪れました。
 
干潟は、川と海の出合ったところに発達し、川によって運ばれてきた堆積物で遠浅で肥よくな一帯が出来上がった場所で、干潮時にはその一帯が地上に現れ、その時沢山の種類のカニの観察ができ、豊富なえさに誘われて沢山の水鳥が集まる場所でもあります。
 
潮が引くと、干潟に幾筋かの小さな水路ができます。

 
江奈湾は県道のすぐ脇にあり、川は県道と平行に流れていますが、県道と川の間は葦原で覆われ、川の存在を無くしています。 県道と川はやがて交差しますが、橋の形跡は全くなく川の存在すら感じることがありません。
 
対岸は小さな森と山があり、山をぐるりと海岸線に沿って回り込むと、毘沙門海岸へと辿り着きます。私はこの毘沙門海岸から江奈湾に向かって進んでいます。
 
ここの地形は箱庭みたいで、興味深いものがあります。 山を中心に、小さな森(?)が取り囲み、その下に葦原があり、細いハイキング道を挟んで海になっています。海岸の地形も岩場や砂場があり、山から湧き出た水が海に注いでいる場所が何箇所かあります。
 
最後の岩場を過ぎ、左に大きく曲がると、江奈湾の入り口です。ちょうどその部分に砂の地帯が少しあります。
 
その小さな砂地で、ホンヤドカリとは違う小さなヤドカリを見つけました。
 
この一帯にまとまって見つけることができましたが、隣の岩場と湾側の礫場では見つけることはできません。 次の年も同じ場所でこのヤドカリを見つけることができましたが、他の季節では見つかっていないのが不思議です。

 
さて、当のヤドカリですが、いろいろ調べてゆくとあるヤドカリに辿り着くのですが、参考文献に記載されている事項のうち、合致しない点が2点あるのに悩みました。
 
文献によると棲息地が、水深20〜97mとなっている点と、左側のハサミにイソギンチャクを付けているという点です。
 
私の観察したヤドカリは、水深0mでいくら見てもイソギンチャクの存在は確認できず、ある著名な先生に写真を見ていただいたところ「トゲツノヤドカリ」で間違いないとのことでした。

 
普通ホンヤドカリにしてもイソヨコバサミにしても、シラスボシなどのえさを与えると、慌てて飛びついてくるのですが、トゲツノヤドカリの場合は目の前にシラスボシを置いても特別反応がなく、長い第二触角を振り回しますが一向に食べようとしません。しばらくの間第二触角を振り回してから、触角の付根に近い方を口にくわえると、スッと先端までしごき,また振り回す作業を繰り返していました。
 
何をしているのだろう?・・・・と、改めて見ると振り回している第二触角が、普通のヤドカリと違っていることに気付きました。
 
長い鞭の様な第二触角ではなく、まるで鳥の羽の様に鞭の側面から枝毛が並んで生えていて、網のようにそれを振り回すことで水中の浮遊物を捕らえ、口でスッとしごいて食べていたのです。
 
改めて文献を見ましたが、文章中にはそのような記載はなく、添付されている図の第二触角が少しおかしな描き方をしてありました。
 
確かに小さく、枝毛が描かれていました。


トゲツノヤドカリは
網の様な第二触角を振り回して餌をとるヤドカリだったのです。

    変わった触角を持つトゲツノヤドカリ

   トゲツノヤドカリは、水深20m〜97mに棲息し、左側の大きい方
  のハサミにイソギンチャクを付けていると文献にあります。 
   しかし 私の見付けたヤドカリは、この条件にはまるで当てはまり
  ませんが、それ以外の特徴はトゲツノヤドカリそのものでした。
 
       鳥の羽の様な形の第二触角

   ヤドカリの長い第二触角は、鞭のように振り回
  し、離れた位置から危険を素早く察知して殻に引
  込んで危険を回避したり、ヤドカリ達がお互いに
  第二触覚で触れ合い挨拶(?)をしたり、見えな
  い殻の内部の状況を確認したりするのに使いま
  す。
   トゲツノヤドカリの第二触角は、このような機能
  の他に鳥の羽の様な触角を振り回し、浮遊する
  食物をこの部分で捕らえ、口でしごいて食べる事
  がわかりました。