オカヤドカリの観察記

  ヤドカリの仲間のヤシガニは、殻には入らず陸上生活をしています。 しかし、産卵は海辺に出てき
て、満潮時の海辺で岩につかまりながら海中に入り産卵します。
  海中に入ると、卵からゾエア幼生が誕生し、大海原に放たれます。 一定期間、波のまにまに漂い
ながら、プランクトン生活を送り、グラウコトエ幼生から稚ヤシガニに変態して陸に上がってきます。

 

 昼間は岩のくぼみや、穴
 の中に隠れているヤシガニ
 ですが、夜になると 隠れて
 いた場所から出てきて活動
 を始めます。

   アダンの木の下で、アダ
 ンの実を懐中電灯で照らす
 と、アダンの 実を食べるヤ
 シガニに出会うことがよくあ
 ります。

   お腹に卵を抱いたヤシガ
 ニが、潮の満ちた海辺に出
 てきました。
   用心深く海辺に近付くと、
 岩伝いに海中に入って行き
 ました。
   30秒~40秒後、岩伝いに
 出てきましたが、お腹の 卵
 はすっかり無くなっていまし
 た。

  ヤシガニは殻に入らないヤドカリの仲間ですが、海から上陸する一時期、
            殻に入るという事を聞きました。


  ヤシガニが生息している地域の海岸で、殻を付けたヤシガニの子供を見っけられないかと思い、調査したことがありました。 満潮のときは海水に浸るような場所で、いくつものヤドカリを捕まえては殻から顔を出すのを待ち、確認しては海に帰していました。
  いくつめかのヤドカリを見たとき・・ヤシガニに似たようなハサミ、触角と目が殻から出てきました。
  もしかしたらと思い、その固体は握りこぶしの中に優しく持って別の固体を探すことにしました。
  突然人差し指の付け根に激痛が走り、慌てて握りこぶしを開くと、殻から身を乗り出した当の固体が頑丈なハサミで私の指を挟んでいたのです。
  ハサミを固体からもぎ取れば、簡単な解決方法かもしれなかったのですが、固体を傷つけたくなかったので、海水につけて自然に離してくれるのを待つことにしました。
  1 分程海水につけていましたが、一向に離す気配が無いので海水から出し、いよいよハサミをもぎ取らなければいけないかなと考えたとき、やっと離してくれました。
  こんなに獰猛なのは、ヤシガニしかないのではとの確信を深めました。
  近くで別の2匹を見つけ、合計3匹を捕まえました。 その場で撮影を済ませましたが、本当にヤシガニなのか、別のヤドカリなのか判別出来ていないので、持って帰ることにしました。


  家に戻り、写真が出来上がったので、同定をお願いすることにしました。
  写真は、採集地と採集時の状況を詳細に書いて、沖縄の島村先生に送られました。
  数週間して、先生の写した写真と返事があり、このヤドカリは数ヶ月前に発見された「コムラサキオ
カヤドカリ」であるとのことでした。

  殻に入ったヤシガニではなく、残念であったと同時に、数ヶ月前に見付けていたらと思うと、これも残念でしたが、はっきりした名前が判明したのは収穫でした・・・・・というのも、どの図鑑を見てもコムラサキオカヤドカリの記載はされていなかったからです。

  数年後、東京科学博物館の武田先生に、オカヤドカリに関する文献を見せていただいた事がありました。
  沖縄県教育委員会発行の、オカヤドカリ生息実態調査報告書「AMAN」です。


その文献によるとオカヤドカリは現在、6種類が知られています。

  1.オオナキオカヤドカリ
  2.ナキオカヤドカリ
  3.ムラサキオカヤドカリ
  4.サキシマオカヤドカリ
  5.オカヤドカリ
  6.コムラサキオカヤドカリ
 
コムラサキオカヤドカリ

オカヤドカリの殻の交換式


  沖縄の石垣島に、白保という場所があります。
  ここは、アオサンゴの群落があり、以前そのサンゴを壊して空港を建設しようという問題で有名な場所でしたが、あまり人が来ないので、ゆっくり、のんびりと観察することが出来るお気に入りの場所の一つです。
  白い砂浜がどこまでも続き、澄んだ海水の遥かかなたのリーフの縁で白い波が立ち、子守り歌の様に波の音が聞こえていました。 太陽がぎらぎら照り付け、空は青く、白い雲がうまい具合に配置され、大自然の中にいる事を改めて実感していました。

 白い砂浜の上の方には、緑色のモンパノキという木が平行して生えており、防砂林の役目をしているようです。
  モンパノキの下は、唯一の日陰となっていて、私が潜り込むわけにはいきませんが、オカヤドカリ達の格好の隠れ場となっています。
  中には、鋭い尖った葉を持ったツキイゲという草の生えている場所があり、そこから黄色い長い刺を持ったガンガゼの様なものが、白い砂浜を吹き抜ける風に吹かれて、砂浜を転がっているのを見かけます。

  これは針状の苞の中心部が雌花で、熟すと脱落し種をまき散らしながら転がっているところでした。

 モンパノキ    ツキイゲの雌花

  ちょうど轟川が海に流れ込む場所にたどり着きました。 そこはサンゴの白い砂とモンパノキの緑、
そしてマングローブなどが生えていて、奥行きと瑞々しさとがあり、清涼感を感じて一休みすることにしました。その時、水位の下がった川の辺で沢山のオカヤドカリが集まってふざけあっているのを目にしたのです。
  何かのきっかけで、オカヤドカリが集まってきて、ダンゴ状態で上になったり下になったり、そのダンゴ状態の中から離れたかと思うと再び戻ってダンゴによじ登る。 そうかと思うと、この騒動を遠くの方から嗅ぎつけ、夢中で近寄ってきて、ダンゴ状態に参加するものまでいます。
  しかしこの騒ぎも、しばらくするとオカヤドカリ達は、何も無かったかのように、思いおもいの方向に散らばってしまい数匹のオカヤドカリが見えるだけとなりました。

  何がトリガーとなり、オカヤドカリ達が集まり、何がトリガーとなって解散するのかが気がかりです。
 しかし、今日のオカヤドカリ達の集まり方はいつもと違っていました。 中核となる数匹のオカヤドカ
リはダンゴ状態となっていますが、その後に続くオカヤ
ドカリ達は、ダンゴ状態になっているオカヤドカリの殻に掴まり、その殻に次のオカヤドカリが掴まるという具合で長い列を作っていました。
  ダンゴ状態のオカヤドカリは、数匹いるのでオカヤドカリの列は、それぞれ構成され
オカヤドカリによる数本の放射状の列がそこに出来上がっていました。
  この時も、遠くの方から慌てて駆けつけ、数本の放射状線の最後尾に掴まったり、中には中心部のダンゴ状態の部分に取付くものまで現れます。するとそこにもう一本の放射状線が出来上がったりしました。
  この場合、ホンヤドカリで確認したような殻をたたく音は聞こえてこなかったのですが、しばらくすると殻から出たオカヤドカリがダンゴの部分にしがみついているのが確認できました。
  殻から出たオカヤドカリも、誰かの脱いだ殻に入り込めたのでしょう・・・いつのまにかいなくなると、
ダンゴ状態が解除され、それに伴い放射状につながったオカヤドカリ達も解散していなくなったのです。


 
   一番手前に写っている殻
 に入った オカヤドカリが 弱
 みを 見せてしまったのだろ
 うか、大きな孔の開いた殻
 を持つ オカヤドカリ(A)が、
 殻を分捕ろうと 襲いかかり
 ました。もみ合っているうち
 に、他のヤドカリ(B)が気付
 き、横取り しようと取り付い
 てきました。
  この騒がしさに、周りのオ
 カヤドカリたちも気付き、集
 まってきました。 そしてどち
 らかが引っ越した後の殻に
 入ろうと、(A) (B) それぞれ
 の殻に摑まって 列を作り、
 順番待ちをしている様です。

  そうは言っても、殻に大き
 な孔の開いた オカヤドカリ
 の殻に摑まって順番待ちを
 するのは 考えられないこと
 ですが、明らかに長い列が
 作られています。

  彼らの行動には、何か別
 の意味合いがあるのかもし
 れません。 

       これらの行動は、どういう事なのだろう・・・
           仮説を立ててみました。

 1匹のオカヤドカリが、殻が窮屈になり住み良い殻を探していました。
しかし落ちている殻は殆ど無く、たまに落ちている殻はぼろぼろだったり、大き過ぎたり小さ過ぎたりしてとても満足できるものではありませんでした。
 最後の手段としては、生きている貝を襲い、中身を食べて取り出して入る方法と、仲間のオカヤドカリと交換する方法ですが、貝を襲うという事は、岩から剥がす作業、固く閉じた蓋を開ける作業、中身を出す作業と大変な工程を要することになります。
中身を出す作業は、食べればいいので一石二鳥と簡単に考えられますが、これが大変な作業なのです。
 食べられるのはほんのわずかで、残りは細かく千切り取り出さなくてはならず、この間に他のオカヤドカリが集まってきてしまうので、最終的に貝を最初に襲ったオカヤドカリがその殻に入れる保証はありません。
 結果的に仲間を襲う事となります。
 適当な殻に入ったオカヤドカリが見つかると、まずそのオカヤドカリに取付きます。
ホンヤドカリの場合は、相手の殻に自分の殻をぶつけて追出すのですが、オカヤドカリの場合はその様な行動はせず、相手の殻によじ登ったり、殻の入口にハサミを突っ込み相手を引き出そうとしたりを、何度もなんども繰り返していました。
 オカヤドカリの殻の交換は、どんな方法で行なわれるのだろうか・・・残念ながら、分かっていません。
 しかしハサミをうまく掴むと簡単に殻から出てしまう場合が結構あります。

 このような事をやっていると、他の仲間も集まってきて、あわよくば自分も良い殻をゲットしよう という目論見の様です。 そしてダンゴ状態が出来上がることになるのです。
 このダンゴの中で、一匹が殻から出ると、すかさずダンゴの内の一匹が空いた殻に入り込むのです。
 その結果空になった殻に、最初に殻から追出された固体が入り込めれば、やがてダンゴは解散されるのですが、運悪く他の仲間が入ってしまった場合には混乱が発生します。
この時、放射状につながっている先頭のオカヤドカリがうまく新しい殻をゲットすると、その空いた殻に掴まっていたオカヤドカリがその殻に入り、その空いた殻に掴まっていたオカヤドカリがその殻に入るという事の繰り返しで、最後に掴まっていたオカヤドカリが、自分の殻を残して新しい殻に入るという筋書きの様です。
 しかし最後の状態になる前に、更に後ろにつながったり、途中でダンゴ状態になったりして大混乱が発生することは目にみえていますが、後ろにつながることは本能なのか、後から学習したものか興味のあるところです。

殻がどうしても見付けられなかった場合は
どうするのでしょうか。


 沖縄の美しいサンゴ礁の白い砂浜にも、沢山のごみが打ち上げられています。 そのごみの中から選んだのでしょう、プラスチックのビンの蓋を貝殻の代りにしたムラサキオカヤドカリを見付けました。

このムラサキオカヤドカリの場合、一時的にビンの蓋を利用したつもりだったのでしょうが、いまだに新しい殻を探すことが出来なかった様です。

   
 殻から簡単に出たムラサキオカヤドカリ  ビンの蓋に入るムラサキオカヤドカリ