干潟に現れた動く黒いじゅうたん…ミナミコメツキガニ 

 7月のある日、西表島のホテルからレンタカーで西表島最南端の道路の終点である南風見田の浜(はえみだのはま)へ向います。ここから先は道路が無く、陸路はジャングルの中を歩くか、船で行くしかないという場所です。 
 仲間川を渡り、215線をとにかく前進すると、道が細くなりいつの間にか畑の中を走っていて、左に海が見えてきました。満ちはますます細くなり、曲がりくねって森の中に続きます。薄暗い森の中を不安感を感じながら進むと、ゲートが見えてきました。
 ゲートにはここから先には行けないとの看板があり、手前右側に小さな駐車スペースが用意されています。

白い砂浜が続く南風見田の浜
 撮影機材を背負い、ゲートをくぐり薄暗い森の中をしばらく進むと、森の出口が右手に現れ視界が一変して目の前に白い砂浜と穏やかな海、白い雲に覆いかぶさる青い空が飛込んできました。砂浜には大きな石が適度な感覚で点在し、サンゴなのだろうか面白い形の石も見つけることも出来ます。
 日陰を探し、機材をそこに置き必要なものだけを持って、海辺の岩の上に陣取りました。3本脚の椅子…アルミ製の3本のパイプと、1枚の三角形の布を張った椅子に腰かけ、三脚に長めのレンズを付けたカメラをセットして数メートル先の岩を狙います。

変った形の石がいくつもあった
 私がカメラのセットを終えて動きを止めてしばらくすると、岩の下から大きなカニが這い出してきて、海の方に消えて行きました。するともう一匹、同じような場所から現れて、同じ様なルートで海の方に消えました。
 甲幅6Cm程のオオイワガ二です。
 この様なカニの動きが次から次へと続き、いつまでも飽きずに時間が過ぎていきました。
 熱中症が取りざたされている昨今、ポットを持ってきましたが今日はそのポットに熱湯を入れてきました。昨日コンビニで買っておいたカップ麺に熱湯を注ぎ昼食代わりとしました。
 中々乙なもので、ぴったり二人分作ることが出来ました。
 潮も引き始め、カップ麺の容器もしっかり回収して次の目的地に向かいます。

 前方にイリオモテヤマネコのオブジェの欄干が見えてきました。仲間橋です。橋を渡り、仲間川の海に向かって左側の干潟を取材する予定です。 
 私達が到着した時は、潮は完全に引いていなくて、観察地点は水で覆われていましたが、暫く待っていると広大な干潟が出現しました。

岩の上を移動するオオイワガニ

甲幅 6Cm程の大きなカニです 
 いよいよ活動開始とばかり、堤防から干潟に下りるため数分間後ろ向きとなって干潟から目を離したのですが、干潟に下りて辺りを見渡して驚きました。
 干潟一面が黒くなり、その黒い塊が右に左に、前に後ろにとうごめいているのです。まるで干潟に広げた黒いじゅうたんが動き回っているかのようです。
 ミナミコメツキガニ…またの名を軍隊ガニの集団です。
 これが今日期待していた取材目的のハイライトです。
 この場所は、今まで何度も訪れていましたが、せいぜい20〜30匹の集団が右往左往しているだけでしたが、今日はまるで違っていて、何千…何万といっても過言では無い程の集団が干潟を埋め尽くしているのです。
 彼らはこれだけの集団を組みながら、動き回るのですから巣穴はありません。しかし危険を感じると、不思議なことに見る間にその姿は消えてなくなります。
 シオマネキやスナガニの仲間は、危険を感じると大急ぎで近くの穴に駆け込むのですが、ミナミコメツキガニの場合は逃げ出すこともなく、こつ然と姿を消すのです。
 彼らは危険を感じると、脚を使ってドリルのように一定方向に回転し、素早くその場に穴を掘って身を隠していたのです。
 
干潟に出てきたミナミコメツキガニ


ミナミコメツキガニの集団

干潟に広がる集団も、いくつもの小隊に分かれていて、それぞれまとまった行動をとります。

仲間橋と干潟

 オーシャンビューのホテルから眺める夕日は素晴らしいものでした。
  暗くなると下の砂浜では、スナガニが走り回っていました。

    次の日…

  今日は、仲間川の対岸の干潟の取材です。
  昨日のミナミコメツキガニの集団を見て、期待も膨らみますが、潮の関係上、事前行動が必要です。
  今回は家内を連れてきているので観光を兼ねて遊覧船に乗り、仲間川マングローブクルーズを予定していて、遊覧船乗り場へ向っているところです。
   仲間川に架けられた仲間橋の欄干のイリオモテヤマネコのオブジェの前で車を止めて、川の様子を見ると、水は満々とたたえられていて川幅が広がり、葦原が水に浸っていて干潟は全くありません。干潟の撮影には向かないが、遊覧船観光には絶好の時間帯です。
 橋を渡り215線を道なりに進むと、左手に山猫タクシーの営業所が見えてきました。手前の路地を左折して車を止め、山猫タクシー営業所で遊覧船のチケットを購入し、そのまま前進して遊覧船乗り場へと向かいました。
 
 仲間川マングローブクルーズ・遊覧船乗り場風景         前方の仲間橋を潜り、仲間川を上流へと進みます。
 遊覧船には20名ほどの乗客が乗込み、仲間川の上流に向かって出発です。
 仲間川は全長は17.5Kmで、日本最大のマングローブ林200haが広がります。そして満潮のときだけ1時間10分の仲間川クルージングツアーが行われるのです。
 さっき渡ってきたイリオモテヤマネコのオブジェのある仲間橋の下を潜り、しばらく進むと川岸がマングローブの林で覆われた神秘的な空間へと変貌します。川はくねくねと蛇行したり、いくつにも枝分かれしていて、何故か私の冒険心をくすぐり気持ち良いものでした。
 更に川を遡ると、人の声がしてきて、筏に乗った人たちが現れました。彼らは手製筏の競技をしているのだということで、周りを見渡すと思い思いの形の筏に、沢山の子供や大人が乗って楽しんでいました。カヌーを楽しむ人もいます。

 水に浸かるマングローブ




   途中、カヌーで遊ぶ人や、手作り筏
  の 競技に出会った。


 やがて前方に船着き場が現れ、遊覧船はそこに係留されました。
 乗客は全員下船して、30分ほど自由に散策し戻ってくるように…といわれ散策に向います。
 とはいっても、そこは20m四方程の場所にウッドデッキの細い通路があり、その脇に独特な板根をしたサキシマスオウノキが何本も棲息している場所でした。サキシマスオウノキで有名なのは、同じ西表島の「古見のサキシマスオウニキ群落」がありますが、こちらは木の直ぐ側まで自由に行けるようになっていて開放的ですが、地盤が悪いためでしょうか泥濘がひどく、巨木であるサキシマスオウノキが板根ごと倒れていて荒れた状態の場所でしたが、そこと比べると手入れが行き届いていて立派なものでした。
  
       上流の船着き場           サキシマスオウノキの説明板      見事な板根を広げるサキシマスオウノキ
  
   これだけの場所で、袋小路なのだから当然と思いますが、予定の時間前に全員集合しました。
 定刻、遊覧船は静かに船着き場を離れ河口に向けて動き出しました。
 遊覧船は川面を静かに滑り続け、船長がマングローブに棲む大きなシジミ…ヤエヤマシレナシジミを見せてくれました。掌にすっぽり納まる大きさで、分厚い殻の重たい貝殻でした。
 案内の中で、「これだけの川では、川の右と左の岸に置いて、生息する生物が全く違います…」…という説明があり、面白いと思うと同時に、一抹の不安がよぎりました。
 遊覧船がマングローブ林を抜けると、川幅が広がりやがて長い仲間橋を潜っ出発地点の港に帰りつきます。
                         出発地点の遊覧船乗り場
 
 上…桟橋を静かに離れ
    帰途に就く。

 中…マングローブに棲
    む大きなシジミ。

 下…遊覧船。
 
 遊覧船がマングローブ林を抜けると、川幅が広がりやがて長い仲間橋を潜っ出発地点の港に帰りつきます。
 しかし、干潮まではまだまだ時間があるので更に先の西表島最南端の道路の終点である南風見田の浜(はえみだのはま)へ行くことにしてあります。 ここから先は、昨日と同じパタンで時間が過ぎて行きます。しいて違いを見つけると、浜に着いてすぐカップ麺を食べたり、水に入ってソデカラッパを見つけたこと位です。
 時間を見計らって南風見田の浜を立ちます。
 そして仲間橋に到着。今日は橋の手前から川岸に下りて取材するので、泥の斜面を伝ってまだ完全に潮の引いていない水際に下りて行きました。昨日と同じタイミングで現場に到着したことになります。 
 潮はどんどん引いて行き、砂地が現れてきました。
 昨日取材した対岸は泥の干潟で、用心深く歩かないと足が抜けなくなるような大変な場所で、葦原があったりして生物相が豊富で活気のある場所でしたが、こちらは砂の干潟で生物らしきものの姿は全く見当たりません。
 そうこうしているうちに、砂にポツン・ポツンと小さな穴が開き出しました。近付くと穴だけですが、撮影の準備をして待つことにしました。
 
穴から出てきたミナミスナガニ
 例によって三脚にカメラをセットし、3本脚のアルミ製の椅子に写真機材を背負ったまま座ったのですが、体制を変えようとした時、アルミパイプの軸を構成するプラスチックが割れ、座部のホロも破れ使い物にならなくなってしまいました。( この廃品はホテルに持ち帰り、ホテルで処分してもらいました。) 
 遠くの空が暗くなり、雷が鳴り始めました。急に冷たい風が吹いてきたので、危険を感じ撮影機材を慌てて片付け、車に戻りました。その瞬間、大粒の雨粒が落ちてきました。安全ベルトをして、エンジンをかけた時は、雷と雨粒の轟音と稲妻が光り、前方20m程しか視界の無い中を車を走らせましたが、その頃はすっかり雨もやみ日がさしてきました。