あるオカヤドカリの悩み

  潮の引いたサンゴ礁の潮間帯で、1匹のオカヤドカリがある巻き貝に出会いました。
  今使っている殻より一回り大きく、住み心地がとても良さそうで、何とかしたいと考え
ました。 何し
ろ今使っている殻は、窮屈な上に縁が欠けたりして、カッコが悪く満足
できるものではありません。 
  しかし、その巻き貝を自分のものにするには、大変な作業が必要となる事が分かっていたので、こ
の貝を襲うのではなく、 出来れば 空の貝殻を見つけたいと考えていたのでもう一回り潮の引いた磯
辺を散策することにしました。
  いい殻ないかな・・・・・と考えながら歩いているといつのまにかさっきの巻き貝の
ところに来てい
ました。

  オカヤドカリは、この巻き貝から殻をいただこうという、重大な決心をしました。 夢中で掴みかか
り、ふと気が付くとその貝の肉をハサミで千切っては口に運んで
いました。
  お腹はすぐにいっぱいとなり、その後は千切った肉片をその辺にばらまくことになりました。
  その結果、肉片に群がる生物達が集まってきて周りが騒がしくなってきました。  その中には仲
間のオカヤドカリも混ざっています。

 それからが大変です。
 後からやってきたオカヤドカリは、何を思ったのか殻によじ登り、ちょっかいを出してきます。 目的
は何なのか・・・?
 殻が欲しいのか、えさが欲しいのかは判断できませんが、このまましていると後から来たオカヤド
カリにのっとられてしまうと考えたオカヤドカリは、肉片が全部取り出せていない殻に引越しをしてし
まうことにしました。 うるさいオカヤドカリの隙を見て一気に古い殻から抜け出してまだ肉片の取り
きれていない貝殻に引っ越したのですが、後から来たオカヤドカリは 脱ぎ捨てた殻には見向きもせ
ずに新しい殻によじ登ったり周りをうろついたりしてまとわり付いてきました。この殻を取られてな
るものかと、必至で抵抗している間に、あんなに広かったサンゴ礁の潮間帯が狭くなり、海水が直ぐ
そばまで迫ってきました。 たまに大きな波の影響を受けて、小競り合いをしている オカヤドカリ達の
ところまで海水が来る様になりました。
 そんな時、慌てて岸に向かって移動するのですが、後から来たオカヤドカリは、決まって殻の上に
乗っていて離れてくれません。そして海水の来ないところまで移動すると、
再び攻撃が始まります。

   この様な事を繰り返しているうちに潮の満ちるスピードが速くなり砂の表面の細かな粒子を沢山
  付けた薄汚れた泡と共に 押し寄せてきた海水がオカヤドカリ達のいる場所を3cm程の深さに覆う
  様になりました。 その時、周囲に異常事態が発生したのです。


 
 肉片の取りきれていない殻に移ると、仲間のオカヤドカリが飛びかかって来た。
 殻が欲しいのか残っている貝の肉が欲しいのか分からないが、攻撃は容赦無く続けられることになる。
 

 
  潮が満ちて来て、砂の表面の汚れで泡を作り押寄せて来た。それでも殻にしがみつき、攻撃は続けられた。

   いつ現れたのだろう・・・。
   海水に浸された砂の中から、無数の細い管が伸び出て、前後左右にくねくねと動きだし、オカヤド
  カ リのいる場所から 半径20cm位の部分の砂がむくむくと持ち上がると、 水管をいっぱいに伸ばし
  たム シロガイの仲間の集団が現れました。 

  その数、10匹前後。 そのムシロガイの仲間の集団が一斉にオカヤドカリ目指してかなりのスピー
  ド で滑るように集まってききました。
   スピードは遅くなる事も無くずかずかと集まり、殻にまでよじ登り、長い口吻を伸ばし、オカヤドカリ
  が 入っているのもお構い無しに殻の入口から 長く伸ばした口吻を差込み貝殻の中に残った 肉
  片を食 べようとしています。

    砂浜が安定して海水に浸る様になると、砂の中に潜っていたムシロガイの仲間が、水管を伸ばしてムクムクと出て来た。 
  そして肉の残っている殻に入ったオカヤドカリめがけて、一斉に集まって来た。
  一瞬の出来事であった。

 一難去ってまた一難・・・。  いや考え方によっては、これは願ってもない幸運なのかもしれません。
   それは全てこれからのオカヤドカリの行動にかかっていました。 オカヤドカリが慌てて陸に這い上
 がると、後で とんでもない災難に遭う可能性があるからです。 なぜかというと貝殻に残った 肉片を
 目当てに、他の仲間に襲われることが目にみえているからです。
   下手をすると、せっかく手に入れた殻を横取りされてしまう場合もあます。
   逆に、不本意であっても、沢山のムシロガイの仲間に囲まれたとき、一時的に殻から出て、ムシロ
 ガイの仲間に殻に残っている肉を食べてもらえば、殻の中をきれいに掃除してもらえると共に、殻を
 横取りされる心配も無く、安心して殻を自分のものにすることが出来るのですが・・・・実をいうと潮が
 満ちてきて私も慌ててその場を立ち去ったのでその後 このオカヤドカリがどちらの方法を選んだ
 のか分からないのが心残りです。

   しかし別の日、別の場所で、一つの貝殻に沢山のオカヤドカリが群がっているのを見た事がありま
 す。 またオカヤドカリの宿換えかと見ているとしばらくして 1匹 2匹といなくなり、またしばらくすると
 別のオカヤドカリがやって来て、入口から覗き込んでごそごそしては離れて行き、また別のがやって
 来て同じ様な動作をして立去って行きました。
   中身はだいぶ食べられたようですが、まだその殻に入れる状態にはなっていないようでした。