アカテガニ

  アカテガニは、陸上生活に適合しつつあるカニといわれています。
  海から離れ生活できるといっても、呼吸をするためには水が必要で、定期的に水中に戻
り、新しい水を補給しなくてはいけません。

  人間は文明の利器を使い、空気を持って水中に潜れる様になりましたが、アカテガニは
この様な文明の利器を使わずに、海から陸上への進出を成し遂げていました。

 
アカテガニは 人間が空気を持って海に潜るようになるずっと以前から、鰓呼吸をするた
めの水を持って陸上に上がってきていたのです。


  ではそのメカニズムを調べて見ましょう。

  鰓を通過し 酸素を取られた水は、空気に触れて 空気中の酸素を取り込み、再び鰓を通
過して酸素を取られるといった方法で、循環する水に溶け込んだ酸素を鰓で取り込む仕組
みです。

 
従って、同じ水を何回も循環して使うため、しまいにはその水に粘り気が出てきて泡を吹
く様になります。 こうなったら呼吸がうまく出来なくなり、危険信号です。 
泡を吹く前に、水
中に戻って新しい水を供給する必要があります。

    海から離れた崖の斜面に穴を開けたり、石の  隙間に住着くアカテガニ。
  
  もしかするとアカテガニは、穴の中に水場を持  っているのかもしれしれません。
 

冬眠するアカテガニ


 
私達は暖かくなると、海水浴や海辺を散歩したり、海に行くようになります。海に行くとそ
こにはいつもの様に、海辺の生物達が生活しているのを目撃します。夏休みの頃はアカテ
ガニも、海から少し離れた川辺や森の中で見付ける事が出来ます。

  でも、彼等は1年中ここでこうして居るのでしょうか。

  11月に入って海辺に行ってみると、夏の間干潟一面を埋め尽くしていたカニたちの姿が
見えなくなっていました。 アカテガニはどうしているだろうと思い、海岸から少し離れた崖の
所に行って見ましたが、崖に沢山の穴が開いているだけで、アカテガニの姿はありませんで
した。


  4月のある日、別の干潟の側にある森の中で、思わぬ発見をしました。  落ち葉の陰の小
石を何気なく持ち上げて見ると、干からびた感じのカニが出てきました。

 
色がこげ茶色で、アカテガニの色とはまるで違う感じのアカテガニでした。
 つまみ上げてみると、干物のような感じですが、ゆっくりと足が動いたりするので、生きてい
る事が分かります。 別の石を持ち上げてみると、そこにもいました。

 
冬眠していたのは アカテガニだけではなく、フナムシも殆ど同じ場所で冬眠しているのに
驚きました。

 
石をどけて見たら 1〜2センチ離れた同じ場所なのですが、アカテガニの穴にいる訳では
なく、石を元通りかぶせると、完全に隔離された別の穴である事が分かります。

  
穴に住んでいるアカテガニは、穴の中で 冬眠しますが、石の下や隙間を棲み家にしてい
たアカテガニは この様な形で冬眠していたのです。 因みに、干潟で見かけたオサガニやヤ
マトオサガニ、コメツキガニ、スナガニ、チゴガニ、マメコブシガニなども この干潟で冬眠してい
るのでしょう

 
   干潟の側に面した森の中の、落ち葉の陰の小
 石の下に、アカテガニが冬眠していました。
 
   石の下で冬眠するアカテガニ
  冬眠しているアカテガニから数センチ離れた場
 所に、フナムシも群れて冬眠しています。


アカテガニの森

  2000年12月、冬眠するアカテガニの観察のため、海辺の直ぐそばにある小さな森を 訪れ
ました。

 
海と森の間に、石のごろごろした砂浜があります。  満潮になると海水は、森の1〜2mの
所まで近付くのでしょう、森の周りは 波で運ばれたあらゆる種類のゴミが 打ち上げられ、私
が森に入ることを拒むように バリヤが張り巡らされていました。 まるでアカテガニが作った
要塞のようです。

  森の中の石の下には、アカテガニがいました。 しかし、彼等は石を持ち上げるとあるもの
は敏感に、あるものはハサミと脚を縮めて 冬眠状態の姿勢からゆっくりと動き出し、持ち上
げた石の下に移動して隠れるのです。 おかげで彼等を傷つけないように、持ち上げた石を
元通りに戻すのに苦労する状況でした。

 
敷き詰められた落葉を踏みしめた時、ずぶずぶと ぬかるみに足を取られました。 注意し
てみると、直径3m位の範囲だけがまるで湿地帯のようになっています。

  その超ミニ湿地帯の脇にあった石を持ち上げた所その石の下だけに水が溜まっていま
した。

  体のまだ赤くない若いアカテガニが2匹、慌てて持ち上げた石の下に逃げ込みました。
  まだ完全な冬眠状態に入っていないのかな・・・と思いました。

 
この森は本当に小さな森で、森の中に入ると直ぐ崖にぶつかります。
 
崖には 木も生えていますが、倒れているものがたくさんありその結果腐った木があちこ
ちに見られます。
崖の探索は 次回のお楽しみとして最初にアカテガニの冬眠を見つけた
時と何か違うのに気付きました。 フナムシの姿が全く無いのです。

  今度は、海岸に近い 森の入口の ゴミの近くの石を持ち上げてみると、そこにはいやにな
るほどのフナムシが右往左往していました。 でも、ここにいるフナムシは、何故かあまり大き
いものではなく、中位から小さいものだけでした。

 
ここでは、フナムシだけでなくアカテガニも慌てて逃げてゆきました。

  2001年1月12日、アカテガニ達は 森の中で完全な 冬眠状態に入っているだろうと期待し
ながら、森に入りました。 しかし状況は前回と変りありませんでした。

 
森の中の石をどけると冬眠状態のカニもいますが、すぐに逃出すカニが結構いたりしま
す。 冬眠状態のカニも、しばらくすると動き出しいなくなりました。


  一つの石の下に アカテガニがいるのを確認し、その上に石の代りに ガラス板を置き
れないように発泡スチロールを置いて、小石や落葉で覆って観察用の場所を作りました。

 
次回来た時 一々彼等と接している石を どけずに観察出来れば 彼等を驚かさないです
むとの配慮です。

  今回は崖の上まで探索をしました。 朽ちた倒木の皮を剥いだところいくつかの穴があ
いていてアカテガニが 冬眠していました。 ある穴には、スズメバチが1匹 冬眠していまし
た。このスズメバチは女王蜂で春になると新しい巣を作り卵を産み育て、あの狂暴な集
団の女王として君臨する事になるそうです。


  その後何度か訪れましたが、全てのアカテガニが完全に冬眠している状態を確認する事
が出来ませんでした。 必ず動き出すのがいる訳です。 ガラス張りにした場所にはその後
アカテガニ達は 全く寄り付かなくなっていましたが、ある時ガラスの上に置いておいた発泡
スチロールの中で冬眠状態のカニがいましたがその後、この場所にもいなくなりました。 
  この様な事から アカテガニは冬の間でも、固体のあるものは 適当に動き回っているので
はないかという考え方が浮かんできました。

 でもその様なカニは、住み心地の悪い場所にいるほんの一部のアカテガニの取る行動と
考えました。

 
なぜなら、今回私共の見たアカテガニは、この森に住むアカテガニのほんの一部であり、
その殆どは もっと条件の良い穴の中などで 完全な冬眠状態に入っているものと考えるか
らです。


  もっと寒ければ、この動き回るタイプのアカテガニも、動き出す事はないだろうとの思いか
ら、雪の降った次の日に森に行ってみました。 海岸の所々に雪の残っているところもありま
したが、この森には雪はありませんでした。 そしていつもの通り動き回っているアカテガニ
もいました。

 
私を見付けると、その若いアカテガニは 地表に横たわった朽ちた木の割目に入り込み、
そこから私の行動を伺っていました。

  この様な事からアカテガニ達はどんなに寒くても、完全な冬眠状態ではなく適当に動き
回るものもいる事が分かりました。


  2001年4月、桜も散り鴬の鳴き声がするアカテガニの森に来ました。
 
森の前の干潟には沢山のカニ達が出てきて、すっかり春の干潟が出来上がっていました。  主役はヤマトオサガニ、チゴガニ、スナガニ達です。
 
しかし森の中のアカテガニ達にはこれといった特別な変化はなく、まだ冬眠の最中のよう
です。

   
         冬眠中のアカテガニ
  目がたたみ込まれて、冬眠状態のアカテガ
 ニですが、しばらくするとゆっくりと動き出し、
 別の石の下に そうっと移動して隠れました。
       冬眠中のベンケイガニ
  この森で見付けたカニは、アカテガニだけ
 ではなく、かなりの割合で ベンケイガニがい
 る事が分かります。

 

 
  冬眠するスズメバチ
  朽ちた木の皮を剥ぎ取ったら、 幹にあいた
 穴に、スズメバチが冬眠していました。
   このスズメバチは春になると巣を作り
 王蜂として 君臨する事になります。
 
  いつもの砂浜に、雪が引きつめられてい
 ました。
(湘南海岸) 

アカテガニの脱皮場所

   アカテガニが 陸上生活に適合しつつあるとは言え、水から離れられない要素が呼吸の
外にもいくつかあります。  その一つが脱皮です。


  海岸のタイドプールから一段 高い場所に、少し変わったタイドプールがありました。 直ぐ
そばに葦が生えていて、その奥が湿っています。

 2m×1.5m 程の大きさで、深さも 5cm〜6cmの小さな 水溜まりですが、満潮の時も海水
がここまで来る事はなく、どおやら 崖の方からしみ出した 水が溜まって出来た 水溜りの様
です。


  そしてこの タイドプールの中にアカテガニの脱皮殻がいくつも 落ちていました。 この崖
の上の方には水場が無いので、アカテガニ達はこのタイドプールの所まで来て、脱皮をした
のでしょう。


 
しかし今年の12月初旬、アカテガニの冬眠の観察に行ったのですが、前の日に雨が降っ
たためかもしれませんがある石をどかしたら、その下が水で満たされていたのには驚きま
した。

 
そして、数匹のアカテガニが慌てて持ち上げた石の下に逃げ込んだのです。 今ごろの時
期ではまだ完全な冬眠状態ではなく、危険を感じると動き出す状態でした。

フナムシは、もっと海に近い石の下にいて、石を持ち上げると 元気に他の石の下に逃げ込
んでいました。

  雨上がりとはいえ、一人で持上がる程度の石の下に、これだけの水を溜めて置けるのな
ら、この小さな山のどこかに、アカテガニだけが知っている秘密の水場があるのではないか
と考えて見ました。

     カニは脱皮して成長します。
   脱皮は水中で、ある程度のス
 ペースが必要です。 小さな水溜
 まりに、アカテガニの 脱皮殻が
 沢山ありました。


アカテガニの産卵

 
  もう一つ、水から離れられない理由の一つが、子孫を残すための産卵行動です。 
 
7月から8月の満月(又は新月)の夜、お腹いっぱいに卵を抱えたアカテガニは海岸に一斉
に集まり、満潮を待って海に入ります。

 そして体をぶるぶると震わせると、卵がかえりゾエア幼生が大海原に放たれます。
 ゾエア幼生はプランクトン生活を送りながら、脱皮を繰り返しメガロッパに変態し、最後の
脱皮をして子ガニに変態すると、陸に上がってきます。

  この頃は体の色は、赤くなっていません。

 

        アカテガニ


  崖にあけた 穴から出てきたアカテガ
 ニの所に、風によって飛ばされた毛虫
 が落ちてきました。
  一心に体をうねらせて安全な場所へ
 移動しようとする毛虫を目敏く見付け
 た アカテガニは横っ飛びに移動する
 と同時に片方のはさみを毛虫の所に
 伸ばして捕まえると、素早く 口に 運び
 食べ始めました。


    アカテガニの雄と雌
 

  大きな雄のアカテガニと、小さな雌が
 仲良く並んでいます。
  しかし よく見ると、雌は雄の大きなは
 さみで、はさみと 足を 挟まれていて身
 動きの出来ない状態にされています。
  この後雌のタイミングを待って 交尾
 が行われます。


     
アカテガニの産卵


  満月(新月)の満潮時の夜お腹に卵
 を 満杯につけたアカテガニが、森から
 海辺に集まって、順番に海に入り産卵
 します。
  
 
       
       森から出て
   産卵に向かうアカテガニ


  太陽が西に傾き辺りが暗くなりかけ
 てくると、森と 海辺の境目に 異様な雰
 囲気が漂い始めます。
  時間が経過し、辺りが さらに暗くなっ
 てくると森と 海辺の境目にずらりとアカ
 テガニが 姿を現しました さらに 時間
 の経過とともに、その数 がどんどん増
 えて潮が満ちて狭くなった海辺に押し
 出されて出てきます。
  そして 海へ入るタイミングを、待ちま
 す。